行きつ戻りつ

走ったり、投げたり、時に釣ったり、何か作ったり、生きてりゃ行き当るとりとめなき事を

人呼んでフーテンの寅と発します

コロナで仕事には行けないし、冷たい雨が降っているので走りにも行けない。なのでHDに残っている録画済みの『男はつらいよ』を見ることにした。

寅さんは、何度も見たはずだ。気分のいい時には、お~れがいたんじゃおよ~めにゃ行けぬ、なんて鼻歌が出たりもする。でも、ストーリーは基本寅さんがマドンナに惚れてはふられる繰り返しの鉄板だし、最初から最後までをきっちり見通したことはあっただろうか?

ただどういう訳だかはっきり覚えているシーンがある。おいちゃんともめるかどうかして、またしてもとらやを飛び出し旅に出る寅さんをさくらが柴又駅まで送ってゆく。発車する直前、”おにいちゃん、いつでも帰ってきていいのよ”、と言うさくらに、“ふるさとってやつはよぉ、ふるさとってやつはよぉ”、と答える寅次郎。ドアが閉まり、続けて言いかけた言葉は聞こえぬまま、電車は走り去ってゆく。

さて、『男はつらいよ』は全50作シリーズの第1作だ。せっかくなので富士山に松竹映画のロゴがかぶるタイトルバックも飛ばさずに見始めた。矢切の渡しに乗って寅さんが20年ぶりに葛飾柴又に帰ってくる。おお、この頃からもう江戸川河川敷のゴルフ場はあったのか。昭和44年の東京が懐かしい。

当たり前だが第1作から寅さんはもう完全に寅さんそのもので、登場シーンから盤石の寅さんっぷりだ。それに感心していたら、さくら役の倍賞千恵子があまりにも可愛らしくて感心するどころかビックリした。

天真爛漫というよりはむしろ傍若無人といってもよいくらい手前勝手にふるまう寅さんに、そりゃあやりすぎだよ~、と苦笑しながら見ていたら、若い頃にはたぶん何ともなかった筈のシーンにいちいち心が動く。ニコニコしながらそうかそりゃ良かったのうと眺めていたであろうシーンで、ジーンとくる。ここだ!というシーンではほとんど嗚咽が漏れそうになる。

調べてみたら、さっき書いたさくらと寅さんの別れのシーンは、第6作の『男はつらいよ 純情編』だとわかった。なんでもシリーズ中屈指の名シーンらしい。道理で何にも考えずに見ていたであろう当時のおれの記憶にも刻まれているわけだ。

これはぜひとも再見しなければならない。絶対ボロボロのぐちょぐちょになるので、だれも家にいないときにひとりで。

”私生まれも育ちも葛飾柴又です”のあまりにも有名な口上で始まるあの歌も、カラオケに安心して行けるようになったら、きっと歌おう。ただ、下手に真似すればきっと嫌味になる。どう歌えばいいんだあの歌は。