走ることについて 〜思い返せば その4後編〜
初めてのマラソン大会 後編
その学校には、少年野球チームが2チームあり、実力は伯仲していた。タナやんはライバルチームの監督の息子でキャプテンだった。
スポーツをやらせれば野球はもちろん、50m走でも、二重跳び、三重跳びの回数でも、ドッジボールでも5年生全員の中で向かうところ敵なしの、本当にこういう奴っているんだなぁ、と呆れるくらいのスーパー小学生だった。
おう、あそこが先頭か!こないなるんやったら、最初っから飛ばしとくんやったー、と思いながら、おれは全力でスパートした。先頭はもちろんタナやんだった。その後に2、3人が食らいついていた。一気に差を詰め、先頭集団から遅れかけたコバやんを抜いた時、おれの足音に気づいたのか、タナやんが振り返った。
マラソンとは言え、学校の近くの住宅街の中を5年生全員が走るので、距離はせいぜい1キロ弱くらいのものだったろう。ゴールの校庭は坂を登り切ったそのすぐ先で、残りはたぶん100mもなかった。
もう少しで抜けるはずだった。一瞬並びかけたのかもしれない。しかしそもそも短距離勝負で戦える相手ではない。残念だが、そこには意地とか根性とか気合いなんかではどうにもならない壁があった。
んニャロー、と必死で走ったが、抜かれまいと本気のダッシュをかましたタナやんにはかなわない。おれは結局2位でゴールした。
しかし、それにしても2位だった。5年は2クラスしかなかったので、せいぜい80人くらいのものだったが、それでもスポーツがやたら盛んなこの学校での学年2位は、おれにとって十分過ぎる結果だった。