泳ぐのはいいぜ
暑さには強い方だと思ってずーっと生きてきた。そんなおれでも、こりゃちょっとまずいな、と思うくらいの気温が連日続いている。こんな時はあれだ、泳ぎに行かなくちゃいけない。
小5の2学期に転入した大阪の小学校では、6年の夏休み前に淡路島で臨海学校があって、全員が2キロの遠泳をすると聞かされた。その頃たぶん50mも泳げなかったおれには全く信じられない話だった。
6年になると6月ごろから、臨海学校に向けて遠泳の練習が始まった。週に何回か、放課後6年全員がひたすら泳ぐ。最初は50メートルを泳ぎきるのがやっとだった。周りは当たり前の顔で男子も女子も何百メートルも泳いでいる。こりゃエライコッチャ、と思ったのは最初のうちだけで、何日めかでなんだかコツを掴めたような気がした。そうしたらそこからどんどん泳げるようになってしまった。
別に自分に才能があったわけじゃない。泳げるようになってしまうのだ。小児麻痺の同級生もみんなと一緒に泳いでいた。人間の体は、泳げるようにできているのだ。
しかも一度泳げるようになると、それを体は絶対に忘れない。おかげでおれは今でもその気になったら1キロぐらいなら泳いでいられる。
どういうわけか、去年はプールに行かなかった。これじゃあだめだ、と思った。このまま泳がない夏を過ごすようになってはいけない、と思った。
3時頃、近所の市民プールに向かった。ここにはがっつり泳げる50mプールがあるのだ。2年ぶりで水に入った。生ぬるい水に浮かんだり沈んだりしながら、自分のペースで泳ぐ。久しぶりだとなかなか水を掴めない。うまく水に乗れない。でも、泳げるってのはいいぜ。
この間動物園で見たそれはもうすばらしいスピードでまぁ実に気持ちよさそうに泳いでいたアザラシのようにはいかないけれど、泳ぐのはいいぜ。だれでも泳げるんだぜ。