行きつ戻りつ

走ったり、投げたり、時に釣ったり、何か作ったり、生きてりゃ行き当るとりとめなき事を

走ることについて 〜思い返せばその5後編〜

初めての陸上競技会 後編

札幌の小学校では、秋に陸上競技会があった。その小学校の校庭がとても狭かったからだろうか、市営の立派な陸上競技場を貸し切って行われるのだ。今思い出すと、なんと贅沢なことだ!と思うのだが、その時は何とも思わなかったのが不思議だ。

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こ〜んなところでやるのよ

おれは、ソフトボール投げと走高跳びと持久走に出たはずだ。

はずだ、というのはそんな陸上競技会があるのだろうか?と疑問に思ったからだ。ひょっとしたら陸上競技会ではなく単なる体力測定で、全員が全種目の計測をしたのではなかったか?
しかし、体力測定ならあるはずの50メートル走も走幅跳びも測った記憶がない。覚えているのは先に書いた3種目だけだ。賞状ももらったような記憶があるし記録も覚えている。一体どういうことなんだろう?

しかし、転校を繰り返したこともあり、もはや当時の友人たちとは全く繋がっていないので、調べようがない。

ともかくソフトボール投げが42メートル、走り高跳びが120センチ、持久走は3分42秒だった。

これがまぁ、全部2位だった。6年は3クラスあって、その中での2位なので立派なものだと思うが、それにしても全部2位なのだった。

ソフトボール投げは、大阪の野球チームでは、肩が強いなとコーチから言われていたので少し自信があったが、別のクラスのソーセージみたいにプリプリの腕をした中山きんにくんみたいな奴が50メートルも投げて大差をつけられた。走り高跳びは、綾野剛みたいなクスノキくんが一人だけ130センチを飛んだ。

そして1000メートルの持久走だ。スタートラインに並ぶと、一緒に出場する同級生から隣のクラスのサトウくんが2連覇しているのだと聞かされた。見ればこっちもおよそ小学生らしくない身長とゴリゴリの体躯を誇るアレクサンドル・カレリンみたいなゴリマッチョなのだった。

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そうそう、こんなヤツだったよ(笑)


大阪でタナやんにあと一歩まで迫ったので、そこそこの自信はあったのだが、そうはいっても、1000メートル走は初めてだ。どのくらいのペースで走ればいいのかよくわからなかった。

 

号砲が鳴り、一斉にスタートした。みんな我先にダッシュして行く。今だからこそはっきり自覚しているが、おれはスロースターだ。こういう時に先頭を切って飛び出すのは、きまりが悪くって仕方がないのだ。お調子者のくせに、どこかで、そういうのってカッコ悪いよな、と思っているのだ。

だからおれは、やっぱり周囲の様子を伺いながら同級生たちの後ろについて少し抑えめに走り出した。

途中のことはあまり覚えていない。残り1周を切って、前を走っていた同級生たちが遅れ始めた。ゴールまであと300メートルぐらいだ。その数十メートル先をサトウくんが独走して行く。

おれは同級生たちを抜いてサトウくんを追った。その時アナウンスが聞こえた。まるで運動会のように場内放送があったのだ。

「2位の選手が追い上げています!どうなるかわかりません!」

そりゃムリだと思った。第3コーナーにかかったあたりだったから、あと150メートルくらいしかないはずで、サトウくんの背中はまだ遠くに見えた。

何で最初から飛ばさなかったんだ!と後悔したが、それでもそのアナウンスに押され、必死で走った。サトウくんの背中が少しずつ近づいてくる気がした。ひょっとしたらアナウンスの通り、この勢いで追えば1位になれるんじゃないか、と思った。

でも限界だった。おれが追い上げていることに気付いたサトウくんは必死で逃げ、10メートルあまり差を開けられたまま、おれは2着でゴールした。

ゴールするとサトウくんは芝生に倒れこみ、起き上がらなかった。

1000メートル走ったくらいで、倒れとるんやないで。

またもや力を振り絞りそこねたおれは、3連覇を成し遂げたサトウくんに向かって、くやし紛れに心の中で毒づいたのだった。

 

さて、フルマラソンのために真面目に走っているランナーの皆さんならわかっていただけるかもしれない。1000メートルを3分42秒で走るというのは、大人でもそう容易なことではないのだ。42.195キロと1キロを同列に考えてはいけないが、それはちょっと置いておく。

キロ3分42秒は、時速16.2キロ。仮にそのままのペースで走れるとしたらフルマラソンを2時間35分あまりで走り切ることになる。1キロとはいえ、そのスピードで走ることができた11歳のおれを、少しばかり誇りに思う。

1年近く走ってきて、ようやく10キロを時速12キロ台で走れるようになった。しかしおれは今、1キロを3分42秒、時速16.2キロで走れるのだろうか?

40年余りの時を隔てて、おれはあの頃のおれから戦いを挑まれているのかもしれない。

“おっちゃん、どっちが勝つか走ってみぃひんか?”

受けて立つ気でいる。