走ることについて 〜思い返せば その3〜
初めての長距離走
剣道を始めて、しばらくたった頃だ。
日記に書いて先生に提出したので覚えている。
4棟の全く同じ構造の5階建てが囲む団地の中庭には、オーバルサーキットのような250mくらいの舗装路が敷かれていた。
自動車を持っている家庭などほとんどなかったので、滅多に車が通ることはない。子ども達は毎日そのコースを我が物顔に自転車でぐるぐる回っていた。
ある日、このコースを何周走れるかやってみることにした。
当時はいわゆるスポ根ものの全盛期だった。アニメのヒーロー達は、たいてい血の汗流して最後には意識を失ってぶっ倒れるまで自分を追い込んだり、追い込まれたりしていた。
剣道の稽古は相変わらず辛かったから「そういう厳しい練習をすれば体力がついて、稽古が辛くなくなるんじゃないか?おまけにすごく強くなれるんじゃないか?じゃあやってみようぜ!」理屈はおかしいが、たぶんそんな風に思っちゃったんだろう。
何周かしたところで、同級生のかおるが1階のベランダから、何やってんの?と聞いてきたので、何周走れるかやってる!と答えた。すると1周してかおるの家の前に来るたびに、彼女の弟のひでひこも一緒になってギャーギャーはやし立てる。
調子にのるたちだったので、やめられなくなった。あんまり苦しいとは感じていなかったのだが、こめかみで血管がドクドク脈打ち始めて、頭もグルグルしてきた。
これか〜、これがもっと行くと気を失うんだな、と思ったが、そこは小学3年生。同じことを延々続けているのにも飽きてきて、たぶん10周弱くらいでやめたはずだ。
それでわかったのは、アニメの主人公のように、どうにも動けなくなって、立ち上がっては倒れ、倒れてはまた立ち上がり、しまいには這いずりながらゴールして気を失う、なんてところまで行くには、相当時間もかかるし大変だ、ということだった。
日記には、あんまり無茶をしちゃダメですよ、と面白くもないコメントが書かれて戻ってきた。
これが、最初の長距離走(?)の思い出だ。